極上な彼の一途な独占欲
「あたしは、恋してるときのほうがなにもかもうまくいく気がする派よ」

「いいなあ」

「そうやって自信なさそうにしてたら、ツキだって逃げてくわ」

「でも浮かれたら浮かれたで、必ず失敗するの」

「喜びすぎて粗相する犬も、飼い主からしたら愛しいものよ?」

「また犬!」


つい噛みついたら、神部が不思議そうに「またってなによ」と目を丸くした。

あっ、しまった。


「なんでもない、帰る準備してくる」

「まあせいぜい伊吹さんに迷惑かけないようがんばりなさいよ」

「うるさいな」

「捨てられたら、あたしが拾ってあげる」


控え室に向かいつつ、そりゃどうも、と適当に流そうとしたんだけれど。振り向いた先で微笑んでいる神部の、瞳が笑っていないことに気づいて飲み込んだ。

私の戸惑いを見て取ったのか、神部が楽しそうに目を細める。

スラックスのポケットに両手を入れて立っている姿は、そりゃもう、極上の男。

…おや?

あれ?




「あっ、伊吹さんがピースしてる、レアだねー」


色白の顔をピンクに染めて、中山さんがふわふわと笑った。

そばでグラスを傾けていた伊吹さんが「ピースじゃない」と顔をしかめる。

打ち上げ会場はホテルの大きなレストラン。代理店さん、クライアント、コンパニオンなど、全部合わせて参加者は百名近くいるので、省スペースのビュッフェタイプ、半立食形式だ。

壁には中山さんが自ら編集したらしい、スライドショーが映し出されて、BGMの役割を果たしている。設営中から初日、そして最終日である今日の写真までが取り込まれていて、もはや懐かしく切ない。

お酒の種類も多く、仕事した後ということもあり、誰もが早々と酔っている。私はひとまずお腹いっぱい料理を食べたところで、壁際でゆっくりスライドショーを眺めていた。

今日の終礼で撮った、全員の集合写真が映し出された。


「これ、色紙にして今度お配りしますね」

「わー、中山さん、細やか」

「だって2位だよ? ショーの歴史に名を刻んだ年だよ!」


感極まった声で握り拳を作る中山さんに、伊吹さんが苦笑した。
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