極上な彼の一途な独占欲
外は日差しが暖かい。とはいえ風は冷たい。近距離だしと思ってストールだけ巻いてきたのを後悔した。


「今週末は雪だって噂ですよ」

「そうだ、宣伝車両のタイヤ、雪用に替えないと」


備える場所が違った。

伊吹さんの会社のほうまで続く、新しい並木道をぶらぶら歩く。

すると前から歩いてきた人影が、「あらっ」と聞き覚えのある声を発した。


「天羽じゃない!」


うわっ、神部だ!

しかもまた男の恰好だ!

私は思わず伊吹さんの後ろにさっと隠れ、「おい?」と怪訝そうな声をあげさせてしまった。

にこやかに近づいてきた神部が、伊吹さんに挨拶する。


「今ちょうど御社に伺ってきたところだったんですよ。お仕事をいただけそうで。伊吹さんとは別の部署の方からなんですけれど」

「ああ、聞いています。もし決まったら、よろしくお願いします」


えーっ、さっそく伊吹さんの会社と仕事!

いいなあ、神部の営業手腕は、つくづく本物だ。


「あんたは、なにをぶーたれてんのよ」

「ぶ、ぶーたれてなんかいないよ」


こちらを覗き込むようにして、私の頬をぺたぺたと叩く。私は自分でも信じられないことに、顔がぐんぐん赤くなっていくせいで、伊吹さんの陰から出られない。

神部が満足そうに、にやっと笑んだ。

そんな私たちを交互に見て、伊吹さんはさすがと言おうか、なにかぴんと来たらしい。背後の私を神部の視線から守るみたいに、腕でかばった。

神部が美しい顔で、くすっと笑う。


「それじゃ、失礼します、伊吹さん。天羽も、またね」


横を通るとき、実にさりげなく私に片目をつぶってみせた。それはうぬぼれでもなんでもなく、男の人が獲物に送る合図そのものだった。女っぽさのかけらもない。
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