極上な彼の一途な独占欲
合格したらしく、またチュッと軽いキス。

場所が場所だからか、それきりで伊吹さんは私を解放し、「了解」と笑んだ。


「片づけておく」

「いつも通りの部屋が見たいです」


再び会社に向かって歩き出しながら。

お願いをしてみたら、伊吹さんはちょっと考えて。


「わかった」


そう了承してくれた。


* * *


部屋の中に車のハンドルが転がっているって、どういう状況?

そのハンドルが載っているのが、車のシートの上ってどういう状況?

私の視線を追った伊吹さんが、知ったことではないと言いたげに肩をすくめた。


「片づけるなと言ったから」

「そうなんですけど…」


あれ、伊吹さんてもしかして、車好きをちょっと超えて、一昔前ならカーキチとか言われていた類の人?

部屋自体はきれいだ。都内のマンションの1DK。ダイニング部分が広いので、カウチもテレビも置いてあって、1LDK的な使い方をしている。

ダークウッドの床に黒や白のシンプルな家具。いかにも伊吹さんらしい。

そして個室のほうは、ザ・男の部屋。

片付いているし、きれいなんだけど、そこかしこに趣味の片鱗が顔を覗かせている。それはさっきも言ったような、部屋の隅に置いてある取り外したレーシングタイプのシートだったり、デスクの上にある、車のエンブレムを模したオブジェだったり。

ディスプレイタイプの本棚には車雑誌やカタログが飾られており、試しに中をちょっと覗いたら、大量のビジネス書に加えて、案の定カーレースのDVDが入っていた。


「この仕事してると、あちこちからもらうんだ、こういうのは」


デスクのオブジェをいじりながらの、伊吹さんの言葉も言い訳がましく聞こえる。

自分で買い集めたんじゃないとしても、飾っている時点で、もう好きですよね。
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