極上な彼の一途な独占欲
「なったらちゃんと言う」

「お願いします」


ほっとした。

私の安堵を見て取ったのか、伊吹さんの微笑みが柔らかくなる。それから首が振られた。


「でも、たぶん絶対、ならない」


見つめ合ったまま、ゆっくりと唇が近づいてきて、キスをした。

重なる温度に胸が鳴って、耐えきれず目を閉じる。

シーツの上に置いていた手を、彼が握ってくれた。

伊吹さん、私、大丈夫でしょうか。

間違わずにいられるでしょうか。この先、どんどんあなたに溺れていくこの予感が現実になったとしても、私のままでいられるでしょうか。


「大丈夫だ」


心の中を読み取られた。

魔王様だから仕方ない。

ふたりの体温で温まったブランケット、いつ侵攻を始めようかタイミングをはかっている濡れた舌。そこだけ無意識に、鼓動の速まりを反映しているみたいに次第にきつく絡む指。

大丈夫。

いつか、このささやきがなくても、自信を持てる日が来ますように。

私も、恋から力をもらえる日が来ますように。

そう願った。


* * *


「『どこのブースもこぞって注力し、けれど成功事例を挙げるのは難しいSNSとの連動を潔く排除し、車を見せることだけに集中した。この硬派な手法に振り切った担当者に敬意を表したい』」

「伊吹さんのことじゃない」

「俺?」


私は会議机の上の雑誌を、伊吹さんと神部に見えるよう向きを変えた。直角に対する面にいる伊吹さんと、正面にいる神部が首をひねるようにして記事を読む。
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