極上な彼の一途な独占欲
たぶんこれがヒロの、自動車雑誌会社での最後の仕事だろう。あの男、露骨に伊吹さんを持ち上げて、今後の仕事を取る気だ。

いや、持ち上げるまでもなく伊吹さんのセンスと実行力はすばらしいし、それを的確に表現しているヒロの文章も、さすがといえばさすがなんだけど…。

テイクアウトしてきたコーヒーをすすりながら、ちっと舌打ちした。

伊吹さんが記事から顔を上げる。


「まあ、嬉しい評だ。やりたかったことが伝わったんだなという」

「伊吹さんのやりたかったことって、なんです?」


神部たちは見事に、伊吹さんの会社の仕事を取ってみせた。車好きの女の子を集め、アンバサダーとして一定期間活動させるプロモーションだ。そして下請けとして、私の会社を指名してきた。企画にはかかわらず、スタッフの育成と現場での監督のみの業務。


『自分の領域は生かしつつ、うまく私たちを使う術を心得てるわねー』


暢子は感心し、そのオファーを受け入れた。

というわけで年明けからの始動に向けて、また新たな仕事が始まった。主体は別の部署なんだけれど、ブランドマネジャーである伊吹さんも当然携わることになった。

で、またこの面子。

伊吹さんは私の質問に、すぐ答えてくれた。


「俺がこのブランドを魅せる上で目指しているのは、"媚びずに愛される"だ」


神部が「まあ」と感銘を受けたように眉を上げた。今日は黒のベルベットのワンピース。完全に女性の成りだ。


「いい女と同じですわね」

「通ずるところはあるかもしれない」


ふたりがうなずき合って、最後に私を見た。

うっ、確かに考え方によっては紅一点のようなものですが、振られても。


「ちょっと、次元の高すぎる話で、私にはよく」

「曲がりなりにも美にかかわる世界に身を置いておいて、レベルの低いこと言ってんじゃないわよ」

「うるさいなあ!」


噛みついた私の腕を、どうどうと伊吹さんが叩いてなだめる。


「落ち着けよ。お前も悪くないぜ」

「伊吹さんたら、褒めて伸ばすにしても限度がありましてよ」

「神部、あんたいったいどっちの味方なのよ!」

「嫌だ、あんたの味方だけすると思ってたの? おめでたい!」
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