極上な彼の一途な独占欲
番外編:土曜日には恋をしよう
「ショッピング?」
「冗談やめろ」
「遊園地」
「そんな歳か?」
「動物園」
「好きじゃない」
「植物園」
「…二十年後くらいにな」
「あ、映画!」
伊吹が黙ると、ようやく瞬殺を逃れたからか、美鈴が小さくガッツポーズをした。見えないようにやったつもりだろうが、洗面台の鏡に映っているので全く隠れていない。
「映画ったっていろいろあるだろ、たとえば?」
「私、なんでも観るので。流行ってそうなところでいいです」
「そんな漫然と観たところで、薄っぺらい体験しかできないのはわかりきってる。嫌だ」
「めんどくさい人!」
「そういうのは思っても言わないのが礼儀だ!」
ドライヤーの音に張り合うようにして言い争う。客人だからと先に使わせていたが、いつまでたっても終わらないので伊吹は美鈴の手からドライヤーを取り上げた。
案の定「まだ終わってません」と文句が飛んでくる。
「もうほとんど乾いてるだろ」
「ここでやめたら台無しなんですってば!」
半ば乾きかけた髪に温風を当てる伊吹の横で、完璧に湿気を抜くまで乾かしきらないとハネや傷みの原因になるとか艶も出ないとか、美鈴がなにか言っている。
「女の印象は髪、服、眉の順で決まると言われてましてね」
「そうかそうか」
伊吹の短い髪はあっという間に乾いた。最初から先に使えばよかった。
服を着るため部屋に戻った。出力を抑えたドライヤーの音と共に、美鈴の声が追いかけてくる。