極上な彼の一途な独占欲
「神部が髪を切ってから、艶が戻ったって喜んでて」

「ふうん」

「手入れも楽だしいいわよーって言ってて。これから暖かくなるし、私も切ろうかなあ? 肩も凝らなくなったって言うんですよ、それ大きいですよね」


実に美鈴らしい、他愛もない話題だなあと思いながら聞いた。髪型について伊吹に聞いてどうしたいのか謎だし、そもそも質問なのかも怪しい。

クローゼットから薄手のニットと黒いパンツを出して身に着ける。髪の毛を整えに再び洗面所に戻ると、美鈴が少し場所を譲ってくれた。


「俺、肩が凝るってわからない」

「え!」


鏡の裏の戸棚からヘアワックスを取り出す。

そこに美鈴がいきなり肩を揉んできたものだから、思わず「うわ」と声が出た。


「このへんが重くなったり、突っ張ったりしません?」

「やめろ、くすぐったい」


マッサージの類は、美容院でも断るくらい苦手なのだ。くすぐったいか痛いかのどちらかで、身体に嬉しいと感じたことがない。

美鈴がドライヤー片手にぽかんとこちらを見上げている。


「どうして凝らないんです?」

「知るか」

「姿勢がいいからかなあ?」


首をかしげながら、緩く波打つ髪に指を入れて熱心に乾かしている。鏡の中でそれを見ながら、伊吹は美鈴にばれないようくすっと笑った。

基本的に、女の見分けはつかない。

昔からそうだった。

男はわかりやすい。上しか見ていない野心的な男、下ばかり見る卑屈な男、自分しか見えない自己中心的な男、全方位の惚れ惚れするような男。

人がいようがいまいが、仕事中だろうがオフだろうが、多少年月を経ようが、男が発するそういった個性は変わらず、いつどこで会ってもあいつだ、とわかる。
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