極上な彼の一途な独占欲
「なんだ、騒々しい」

「す、すみません、なんでしょう」


顔をしかめた伊吹さんが、背後のステージを指す。


「社長が来るのに合わせてステージ演出を1ローテ行いたい。モデルのステージアクトも。予定外だが、できるかな」

「確認します」


中山さんがすぐさまシーバーに話しかけた。彼は運営スタッフとクライアント、両方の回線と会話しなければいけないため、シーバー2台持ちだ。

私は控え室にいるはずの暢子に電話をかけた。今日のモデルの出番はすでに終わっているので、ヘアメイクを解いている可能性もあるからだ。


『大丈夫よ、ちょっと準備すれば出られる』

「よかった。支度が終わり次第来てくれる?」


携帯をしまいながら「問題ありません」と伊吹さんに伝える。彼はブースのほうへ視線を投げたまま、うなずきを返してきた。


「あの…社長さんは、その、どう思われるでしょう、コンパニオンたちを」


おそるおそる、横顔に聞いてみる。

彼のところの社長といえば、本国から来ていたはず。コンセプトにも合っていない、極東のフェティッシュな文化を目にして、気分を害したりはしないだろうか。

伊吹さんはふとなにかに気づいたように振り返り、軽く眉を上げてみせた。


「なにか聞いたな?」

「はい…」

「気にしなくていい。社長は日本のオートショーも初めてではないし、今回のブースについては、スタッフ構成含め、もう説明してある」

「ですが」


伊吹さんの理想としたものは、これとは違う。

私がどんなにがんばったところで、根底から見当違いだったのだ。自分の世界の狭さを思い知らされたようで、悲しい。


「伊吹さん、確認とれました、いけます。調整にあと5分ください」

「わかった、よろしく」
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