極上な彼の一途な独占欲
「申し訳ありません、なんですか」

「昨日のアンケートで、サブステージの子供向けのプレゼンの人気が高かった」


あちこちの出入り口が開け放たれていて、暖房がどんどん逃げていく会場は寒い。腕をさすりながら歩いていた私は、え、とそれを聞いた。


「彼女に伝えておいてくれ」


子供向けのプレゼンは、以前行ったテストのとき、ぎりぎりで通過させてもらった子が担当している。あれから必死に、本当に必死に練習して、みんなと同じメインステージには立てないながらも、くじけずここまで来た。

やったね、よかったね…!


「はい、伝えます」

「それから、彼女の交代要員を育てておくこと」

「えっ」

「プレゼンの回数を増やす可能性が出てきた。こなせそうならメインステージも兼任させたい」

「本当ですか!」

「嘘をつくほど暇じゃない」

「ありがとうござい…」

「中山さん、ノベルティは届いた? 朝イチで配布できるか確認したい」


頭を下げた状態で、私はあっさり置いていかれた。「できまーす」という返事から続く会話を遠くに聞く。

伊吹さんて…。


「どしたの美鈴、靴でも汚れてるの」


やってきた暢子が、身体を折り曲げている私に不思議そうな声をかける。


「ちょっとね、ストレッチ…」

「わかる、このカーペット、腰に来るよね。もう少し毛足が短ければいいのに」


スエードのパンプスのつま先が、忌々しげにカーペットをぐりぐりと踏んだ。

ねえ暢子、伊吹さんてもしかして、鬼でも悪魔でもなくてさ。

…ただの無神経ってことはない?

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