極上な彼の一途な独占欲
「あっらあ、辛気臭いツラ見ちゃった」
「げっ!」
もうすぐ開場というころ、野太い冷やかし声が投げられた。
私はちょうど「かわいいよ」「きれいだよ」のルーティンを終えたところで、巻き込まないよう急いで女の子たちを持ち場につかせる。
振り向いた先で、腰に手を当てて偉そうにポーズを取っているのは、真白なスーツに身を包んだ、見上げるような迫力美人──性別は男──だ。
神部優(かんべすぐる)。同業、すなわちライバル会社の経営者だ。
「今年のクライアントはこちら? ずいぶん出世したじゃない天羽。前回のオートショーじゃ、地味ーなブースで地味ーなコンパニオン立たせてたくせに」
「うるっさいわね、あんたと違ってクライアントを選んだりしないの」
艶やかなブラウンの長い髪をさっと払い、神部がバカにしたように笑う。
「選べる立場じゃなかったってだけでしょ、弱小さん? よくも遥香を横取りしてくれたわね、覚えてなさいよ」
「なにが横取りよ、あんたのもんじゃないでしょ」
「あの子がうちと組んだ仕事で、どれだけ賞を獲ったと思ってるの? あんたんとこにはもったいないわよ。宝の持ち腐れ」
「その宝自身が、私たちのオファーに応えてくれたんですけどね」
「お情けでしょ。そんなこともわからないから弱小なのよ」
「なんですってえ!?」
「天羽、うるさい! 開場したぞ!」
ついヒートアップしたところを、伊吹さんに叱られた。私はひっと首をすくめ、声のしたほうを振り返る。彼がこちらへ歩いてくるところだった。
「申し訳ありません」
「ターンテーブルの調子が悪いんだ、モデルの動きを変える必要がある。ちょっと調整につきあってくれ」
慌てて背筋を正し「はい」と請け負った。
「すぐ準備します」
「頼む」
彼は神部に注意を払うこともなく、周囲に目を配りながらまたブースのほうへ戻っていく。大がかりなイベントはトラブルも多い。そうした情報すべてが彼のところに持ち込まれ、彼の判断を待っているのだ。