極上な彼の一途な独占欲
私は腕時計で時刻をチェックし、すぐに暢子とモデルを呼んで打ち合わせをすることにした。「じゃあね」と神部に別れを告げようとして、ぎょっとする。

完全に目がハート形だ。


「ちょっと、神部…」

「なにあれ、今のがクライアント?」

「そうだけど」

「めちゃくちゃいい男じゃない、早く言いなさいよ!」

「えええ…」


肩をわしづかみにされ、がくがくと揺さぶられる。ばっちりネイルが施されているとはいえ、骨格も力も男性の手にそれをやられると、けっこうな衝撃だ。


「紹介して!」

「嫌です、なんでわざわざライバル会社を」

「個人的にでいいわよ、友達とかなんとか言えばいいでしょ」

「誰が友達!?」

「まー、あんたって身体だけじゃなく、心まで貧相なのね!」

「だっ…」


また大声を出していたことに気づき、危ないところで口をつぐんだ。もう、ただでさえ忙しいのに、ややこしいことを持ち込まないでよ!


「わかったよ、機会があればね」


それだけ言って、バックヤードへと急ぐ。「頼んだわよー」と現金な猫なで声が後ろから聞こえた。まったく、お客様がいなければ紙くずでも投げつけてやるところだ。

いい男だって? それ、顔にだまされているだけだから。

中身は嫌味なくらい冷徹な、鬼で悪魔で閻魔大王なんだからね。それでもいいならいくらでも紹介してやるわよ。

紹介してやるわよ…。

あれ…。

なんだろう、この変な胸のもやもやは。


これだけ出展社の多い巨大イベントとなると、控え室にも限りがある。メイクや着替えのため、モデルとコンパニオンたちに優先的に広い部屋が割り当てられ、その他の関係者は一緒くたに、同じ部屋を使わざるを得ない。

クライアントといえども、同じこと。
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