極上な彼の一途な独占欲
「あっ、悪い」


ノックもせずに入ってきた伊吹さんは、中にいた私を見て驚いたようだった。


「いえ、お邪魔してます」

「誰もいないと思ってた。いつもは向こうの大部屋を使ってるだろ、どうした?」

「昼間、女の子たちがはしゃぎすぎていたので、叱ったんです。それで私が同じ部屋にいたら、彼女らが疲れちゃうでしょう?」


控え室の中央にある会議机の上では、いろいろな人のノートPCが電源の取り合いをしている。伊吹さんはひとつを開き、起動させた。


「はしゃぎすぎ?」

「四日間、さいわい目立った失敗もなく来ました。そうするとどうしても、気が緩んで浮かれます。それが出ていたので、活を入れたというか」


奥のソファでお菓子を食べていた私は、ここでも私がいたら伊吹さんがくつろげないだろうと、腰を上げてドアへ向かった。


「あんたは、よきリーダーだな」

「とんでもない、陰で鬼婆って呼ばれてますよ」


通りすがりに、お菓子の包装をゴミ袋に投げ入れる。


「楽じゃないだろう? ちょっと気を抜いた姿を見せたりしたら、誰も言うことを聞かなくなる」


そう言われたのは、ちょうど彼の後ろを通ろうとしたときだった。思わず立ち止まってしまった私は、彼が椅子を引くのを待ってくれていることに気づき、壁と椅子の狭い隙間を、慌てて通してもらう。


「…やっぱり経験があるとわかります?」

「鬼婆なんて呼ばれた経験はない」


パイプ椅子に腰かけながら、伊吹さんが眉根を寄せた。

あ、まさかの無自覚…。


「なにを笑ってる」

「なんでもないです」
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