極上な彼の一途な独占欲
部屋の隅にはインスタントの飲み物が山盛りになった即席の給湯スペースがあり、ポットには温かいコーヒーが常備されている。

通りすがりに、私はそれを紙コップに注いで伊吹さんのそばに置いた。


「どうぞ」

「ありがとう」


PCで作業を始めていた彼が、それを見て目を見開き、ついで顔を上げる。


「別にこんなことしてくれなくていい。控え室では各自、好きにくつろげ」

「クライアントの自覚に欠けてますね」

「黙ってかしずかれとけって?」


面白くなさそうに言って紙コップを口に運ぶ。「いいえ」と私は笑って返した。


「返すなら気遣いよりも、仕事と金だってことです」


伊吹さんはきょとんと私を見て、やがて吹き出し、笑った。

う、もう何度か見て慣れたと思っていたけれど、やっぱりこの人の、こういう純粋な笑い顔って、ドキッとする。


「その期待にはまだ応えられないんだが」

「まあ、そうでしょうね」

「酒は飲める?」

「は?」


ドアに手をかけていた私は、なんのことかと振り返った。

椅子の上から伊吹さんが、気さくに微笑む。


「俺は明日オフなんだ。今夜は久々に飲もうと思ってた。ごちそうするから、軽くつきあわないか」

「え…」


それって、え、ふたりでってこと?

言葉に詰まった私を見て、伊吹さんの微笑みが少し残念そうなものに変わり、けれどあきらめよくうなずいた。


「嫌なら別にいい」

「い、嫌じゃないです、私も明日、休みです」
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