極上な彼の一途な独占欲
あれ、この情報、言う必要あった?

焦って、手元のバインダーをいじりながら言い添える。


「あの、お酒も好きです」


私、顔赤くない? 大丈夫? ていうか今、なにを言おうとしている?


「ぜひ、おつきあいさせてください…」


ねえねえその返事、前向きすぎない!?

心の中と行動がどうにも伴わず、ドアの前で、私は軽いパニックを起こしていた。ぜひとかくださいとか、なに殊勝に積極的なこと言っているのよ! やる気出しすぎでしょ、また笑われるよ、足元見られるよ!

だって、でも。

心の隅っこに、子供みたいに言い訳する自分がいる。

だって実際、行きたいんだもん。

誘われて嬉しいんだもん…。

はっと我に返り、肝心の伊吹さんの反応はと気になった。顔を上げるとばっちり目が合う。彼の表情は、"ぽかん"そのものだった。

かっと頬が熱くなるのを感じた。あきれられるほどの百面相を見せていたと思うと、いたたまれない。


「あの、そういうわけで、失礼します」

「天羽、連絡する」


大急ぎでドアを開け、出ていこうとした私に投げかけられた声。その声も、どこか焦っているように聞こえたのは、私の願望に違いない。

とても振り向けずに、「はい」と口だけで返事をして控え室を飛び出した。

プレハブの控え室は、会場をぐるっと囲むように設置されている。出たら屋外だ。会場である建屋までの、少しの距離を走った。

うわあ。

伊吹さんと、うわあ。

うわあー!




「ちょっと、聞いてんの!?」

「あ、ごめん、いいえまったく」


神部が容赦なく私の腕を肘で小突いた。弾き飛ばされるようによろけ、私は仕返しに脚を蹴ってやる。
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