極上な彼の一途な独占欲
「加減しなさいよ、馬鹿力!」

「伊吹さんに紹介してくれたらね」

「もう名前まで調べたわけ」

「ちょっと聞きまわったら、有名だったわよ。ドイツの本部に研修に行くことを許されたエリート中のエリートで、帰ってきてまだ二年ほどなんですって」

「へえ」

「彼と仕事したことのある人が、エルケーニヒって呼んでたわ」

「なにそれドイツ語? どんな意味?」

「魔王」


最上級なのが来た。


「日本の販売を立て直せって使命を負って戻ってきて、一年で目標を達成したらしいわよ。店舗の統合、店長の入れ替え、セールス育成の見直し、どれだけ恨み買いながらゴリゴリやったのかしらね」


ため息をつきながら、熱っぽい目つきでステージ横にいる伊吹さんを見つめている。そういうのが好きだったのか、こいつ…。


「あ、行かないと。じゃあね、うちのブースも見に来てよ」

「うん、お疲れ」


今年神部の会社が担当しているのは、大手国産メーカーのブースだ。面積も広く予算も莫大なため、動かしているコンパニオンの数もすごい。個人の質じゃ負けていないことを確認しに、後で見に行ってこよう。

そんなことを考えつつひらひら手を振って見送り、ブースに目を戻したら伊吹さんがいなかった。

あれ?


「和、洋、中、どれがいい」

「きゃあっ!」


いきなりすぐ近くから声がして、仰天した。

見送っていたのと反対側の隣に、いつの間にか伊吹さんが現われている。


「は、え、和…?」

「洋ならこのへんだと、イタリアンかスパニッシュ。微妙に僻地だから、そんなに選択肢がないんだよな」


ブースに目を向けたまま、少し抑えた声でそんなことを。秘密の約束という感じがして、私は落ち着かない気分になった。
< 32 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop