極上な彼の一途な独占欲
「ええっと、私はどこでも、伊吹さんのお好みで」

「俺は酒が飲めればいい。ワインバーに行こうと思ってたんだが、天羽が一緒なら、先に腹ごしらえをしてからのほうがいいかなと」

「あの、私、別に大食らいなわけじゃないんで」


そんな気配りをさせてしまうほど食べるイメージがついていたのかと慌てて訂正すると、「そうなのか?」と意外そうな顔をされた。

危なかった。それ誤解です、誤解。


「はい、なのでワインバーで軽く食べられれば十分です」

「連絡先、聞いていいか」

「え?」


携帯を取り出した彼を見て、ご存じですよね?と首をひねった。すると向こうも同じように首をひねる。


「…プライベートの」

「あ、私、分けていないんです。全部あの番号で。あれっ、ということは伊吹さん、いつもお使いのは会社のですか?」

「そう。アプリも自由に入れられないから、使いづらいんだ。できたら今後は仕事の話も私用のほうへ連絡してもらえると嬉しい」

「はい」


私も携帯を出し、伊吹さんが教えてくれた番号を登録した。ついでにメッセージアプリのIDも教えてもらい、自分の心が浮きたっているのに気づいて、青春中の高校生か、と恥ずかしくなる。

その後、8時近くなり閉場の音楽が場内に流れはじめたころ、【半に駅で】というメッセージが来たときなんて、返信するのに5分も要し、結局送ったのは【はい】だけ。

ちょっと舞い上がりすぎだ自分、と汗ばんだ額を手で拭う始末だった。




「すみません、遅くなりました」

「いや」


会場から、ホテルと逆方向に10分ほど歩くと、最寄りの駅がある。来場客がまだちらほらいる駅の、建物の外にいた伊吹さんは、私と合流すると駅には入らず歩きだした。


「なにか手間取った? 大丈夫?」

「大丈夫です、ちょっと風邪ぎみの子が出て、明日のシフトを調整してました」

「急に寒くなったからな」

「今日と明日は自宅に帰すことにしました。実家なので、野菜をたっぷり食べさせてもらってよく寝ればすぐ元気になると思います」

「母親みたいだな」

「それは、鬼婆より嫌かも…」
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