極上な彼の一途な独占欲
木曜から始まったショーは、四日目が終了した。土日は開場時間も長く、例年以上の人の入りで、今日などは通路から展示物が見えないほど混んだ。

私は暢子と途中で交代したけれど、伊吹さんはずっとひとりで責任者を務めていた。やっぱり疲れているんだろう、紫煙をくゆらせながら、ぼんやりと窓の外を見ている様子に、いつもの厳しさはない。


やがてワインが運ばれてきた。

軽くグラスを合わせ、ひと口含む。久しぶりのアルコールが、ふわっと身体を温めた。そしておいしい!


「これ、私好きかも。そっちどうです?」

「普通かな。ちょっと薄い」

「伊吹さんがこっちお好きそうなら、ボトル頼みましょうよ」


早々に好みの味に出会えて浮かれ、私はグラスを彼のほうへ押しやった。伊吹さんは自分のグラスを口に当てたまま、なんともいえない表情で私を見る。

少しの間ののち、私は自分のしたことに気がつき、恥ずかしさにうなだれた。


「すみません、女子会のノリでした…」

「やっぱりわかってなかったんだな…」


料理を頼むついでに、ワインリストを上からふたつ指して『これ、それぞれひとつずつグラスで』とオーダーしたのは私だ。

伊吹さんが『え』と変な顔をしたものの、気にしなかった。もしかしてこういうときのオーダーは、男性に任せるのがマナーだったのかな、なんて見当違いのことを考えていたくらい。

バカ…。


「ごめんなさい、もうひとつずつグラス頼みましょう」

「いや、天羽が好きなら、それをボトルで頼もう」

「でも伊吹さんが気に入らなかったら」

「俺はそこまで気にしないから、なんでもいい」

「ダメ! ちゃんと試して、気に入ったものを見つけるんです!」


"なんでもいい"や"どうでもいい"が許せない私は、つい本気で言い返してしまった。はっとしたときにはもう遅く、伊吹さんが新しい煙草をくわえ、目を丸くしている。


「あ…ご、ごめんなさい」

「いや…」
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