極上な彼の一途な独占欲
赤面続きだ、もう。どこかに私の入れる穴ないかなあ、と小さくなっていると、テーブルの上のグラスを、煙草を挟んだ指が取り上げた。


「もらっていい?」

「え、あ…」


私が飲んでいたほうのだ。

グラスの脚ではなく、カップの部分を掴んでいるこだわりのない仕草。同時にもう一方の手で、「はい」と彼が飲んでいたほうを私の前に置く。

グラスに口をつける姿を見ていると、こっちが照れくさくなる。私、いくつよ、もう。

しかしくいと軽くあおった伊吹さんは、なんだか微妙な顔で唇をなめ、もうひと口飲んで、今度ははっきりと渋い顔をした。


「甘すぎる」

「私、こっちもわりと好きです」


交換したワインを、変に意識しないよう思い切って飲んだ私は、あらっこれいける、とついそのままぐいぐい飲み干してしまった。

明らかにあきれているような視線が、隣から突き刺さる。


「好みがザルというか、味覚が鈍いんじゃないのか」

「なんでもおいしく飲み食いできる体質なんです」


我ながら苦しいと思いながら言い張り、お酒のせいか、ここまでかいた数々の恥のせいか、すっかり熱くなった頬を手で隠した。

まじまじと私を見ていた伊吹さんが、ふっと笑う。


「それは、いいことだな」

「…今日、なんで私を誘ってくださったんですか」


えい、恥かきついでに聞いちゃえ、と私は核心ともいえる話題を投げてみた。爆弾投下くらいの感覚でいたのに、伊吹さんは平然としている。


「男が女に奢る理由に、下心以外のものなんてないと覚えとけ」

「し、下心!?」

「冗談だ」


再び真っ赤になった私に、さらっとそう言ってみせ、「半分な」と付け加えた。


「半分…」

「じゃあ天羽は、なんで来た? 誘われた理由もわからないんなら、断ればよかったのに」


背もたれに体重を預けて、腕だけ伸ばしてテーブルの上の灰皿に煙草をぶつける。その怠惰な様子は、いつものぴりっとした伊吹さんからは遠い。
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