極上な彼の一途な独占欲
「…伊吹さんと、話してみたかったので」

「俺もだ。天羽と話してみたかった」

「なにをです?」

「なんでもいい。これまでしてきたこととか、これからしたいこととか。好きなものでも嫌いなものでも」


唇がまた、煙草を挟む。隙間から、綺麗に並んだ歯がのぞく。煙草が離れると、代わりに吐き出される白い煙。


「天羽の話であれば、なんでもいい」


その口元が笑みを作ったとき、私はいつの間にか彼がこちらを見ていたことに気づいた。わ、これじゃ見とれていたのがバレバレだ。

今さら目をそらした私を、笑っているのがわかる。夜景に気を取られたふりをしてやりすごした。

この”なんでもいい”は、なんだか、いい。

伊吹さん、私ね、あの『むしろ』の続きを、ずっと待っているんです。そんなのとっくにわかっていると思いますけれど。

そこに料理が運ばれてきた。アヒージョとサラダ。けれど私たちはどちらも、手をつけようとはしなかった。

私は『甘すぎる』と返却されてきたワインを少し飲んだ。


「あの…前に、私のこと、嫌いじゃないって」

「うん」

「つまり、好きってことですか」


こわごわうかがった先で、目を合わせていた伊吹さんが、こらえきれなくなったように吹き出した。「あのお」と思わず非難すると、「悪い」と言いながら顔をそむけてますます笑う。


「なにがおかしいんですか!」

「悪かったって。いいなと思ったんだ。"好き"とか、罪のない響きで。しばらく縁がなかった」

「からかってます?」

「からかってないよ」


ひとしきり笑った伊吹さんが、テーブルに肘をついてこちらを見る。その目が優しく微笑んでいたので、当然ながら私はドキッとした。


「私で遊ぶために誘ったんですか」

「それも違う」

「…じゃあ、下心?」

「うーん…将来的な展開に投資しているつもりが、ないとは言わない。俺は天羽に気がある。なかったら誘わない、当然」
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