極上な彼の一途な独占欲
04. あれっ、甘くない?
翌朝は暢子からの電話に起こされた。


『おはよう、こっちは問題なく始まったわよ。取り急ぎ報告』

「お疲れ…」

『なにその声! あんたまで風邪? なんか差し入れ持っていこうか?』


いや、ただの二日酔い…。あとしゃべりすぎで喉が枯れた。


「平気、ありがと」

『やっぱり平日とあって、お客様の入りは落ち着いてるわね。でも天気もいいから、午後は混みそうよ。ま、そっちはゆっくり休みなさいな』

「そうさせてもらう。人手が必要になったら呼び出して」


通話を終えた携帯を、ベッドのサイドボードに置く。頭が痛い。喉が渇いた。

仕方なく、もっとぬくぬくしていたかった清潔なシーツから出て、デスクの下の冷蔵庫から水を取り出した。

ホテル暮らしのいいところは自分で掃除をしなくていいところで、よくないところは、そのおかげで日増しに、散らかすことへの罪悪感が減っていくところだ。

あちこちの椅子や物干しに、一度着た服や仕事で使う小物たちが引っかかっている室内を見回し、さすがに片づけようと思った。

でもまずはもう少し寝よう。

私はその気になれば、午後まで寝ていることもできる。

ベッドに戻り、ふと思いついて携帯をもう一度手に取った。夕べはホテルに帰りつくなり寝てしまったのだけれど、特になにも通知はない。

まあ、"楽しかったよ"メールなんて甘いことをする人じゃないか。

毛布にくるまって、ひとりでくすくす笑った。楽しかった。ああ楽しかった。

わりと序盤から酔っ払ってしまったので思い出せない部分も多いけれど、とにかくよくしゃべって笑って、伊吹さんの笑い声をたくさん聞いた。

よく通るだけに、普段冷たく響く声は、笑うとすごく親しげに、普通の男の人らしい音色になる。まだ耳に残っている。あの声好き。

今日は彼もオフ。ということはたぶん、同じホテルの上の階にいる。もしかしたら私と同じように、まだベッドにいて惰眠を貪っている最中かもしれない。

そう考えるとますます、一日ゴロゴロしていたくなる。


* * *


「一緒にするな」


一蹴された。

結局オフを二日酔いと簡単な片づけとごろ寝に費やした私は、似たような境遇だったのではと翌日、ショー会場で会った伊吹さんに水を向けてみたのだけれど。
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