極上な彼の一途な独占欲
「でも伊吹さんも、かなり飲んでましたよね?」

「俺はあのくらいで翌日に響いたりしない。というより響かない量に抑えたんだ。午前中はほかのブースを見て回って、午後は会社にいた」

「え! オフなのにですか?」

「ショーのシフトがなかったというだけで、れっきとした出勤日だ」


たいへん失礼をいたしました…。

というより、あれ…あの飲みの余韻で浮かれていたのって私だけ? ですか?

運営マニュアルを難しい顔で眺め、伊吹さんが胸元のマイクに手を伸ばした。


「中山さん、取れる? ショーカーのリモコンの反応が悪いのが気になる。今日制作会社のスタッフを呼んだ。来場が少ないうちにメンテを入れたい」


少し耳を澄まし、「了解」と短く吹き込む。


「ステージアクトのスケジュールも変わる。調整して連絡するから、そのつもりでいてくれ」


マニュアルでおざなりに私を指し示しながらそう言い、ステージ前を離れようとする。私が返事をしていないのに気づいたんだろう、一歩踏み出したところで振り向いた。


「不都合でもあるのか」

「ありません。ご連絡をお待ちしています」


ふてくされた態度にならないよう心がけたつもりなのだけれど。伊吹さんはなにかを感じ取ったらしい。私を上から下まで眺めて、鼻で笑った。


「自分の酒量くらい心得ておけ。30代に片足突っ込んでるくせに酒に飲まれる女なんて、誰も相手にしないぜ」


よけいなお世話ですよ!

と言い返す前に行ってしまった。大声を出したら出したで怒られていただろうから、よかったとも言える。

言えるけれども!


「どしたの、目つき悪いわねー」

「私は完全に休みだったんだもの。ちょっとはめ外したっていいじゃない!」

「はあ?」


大きなほうの控え室に戻った私に、暢子がきょとんとした。
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