極上な彼の一途な独占欲
うん、その意気!

と一緒に気持ちが上がったのも事実。けれど一方で下がったのも事実だった。

私にはあの態度で、女の子相手にはそうやって、たまに見せる愛想を武器に株を上げているとか…。冷たくしてからの惚れさせターンですか、ああそうですか。


「30代に片足突っ込んでるとか…」


スケジュールをチェックしていた携帯が、手の中でみしっと音を立てる。

死ぬほどよけいなお世話だし、失礼にもほどがあるし、けっこう本気で気にしている、シャレにならない年頃なんですけど!

思い出すだけで頭から湯気が出そうになり、はた目にもそれがわかったのか、葵ちゃんが「イライラには鉄サプリですよ」と心配そうに一粒くれた。




「ちょっと天羽ー」

「出たあー」

「出たってなによ、化け物扱いしてくれるのは、ちびっこどもだけで十分よ!」


神部が本気で憤慨しているようなので、つい笑ってしまった。

今日の神部は、目の覚めるようなピンクと黒の、大胆なストライプのスーツ。身長は180センチ近くあり、さらにピンヒールを履いているので、小さな子どもから見たら、確かに恐ろしいだろう。

男の恰好をしていれば、メンズモデルができるレベルの容姿なのだけれど。

会場内のエスカレーターで、関係者用の売店がある上階に向かう途中、ガツンガツンとステップを揺らして誰かが近づいてくると思ったら、神部だった。


「昨日ブース行ったら、伊吹さんはいないしあんたは休みだって言うし」

「怒られる筋合いないんだけど」

「まさか、一緒に休み取るような仲なんじゃないでしょうね」


ばさばさの睫毛がぐいと迫ってくる。


「…神部って男の人が好きだったのね」

「あたしのこのナリを見て、今さらそこに気づくあんたがすごいわよ」

「だって、そういう感じで奥さんも子供もいるって人も知ってるし」


きれいな女の子のコンパニオン同士が同棲していたという話も知っている。この業界、なんでもありすぎるのだ。

神部は手すりに肘を置き、ふふっと笑った。
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