極上な彼の一途な独占欲
「すごいわねあの人、あたしを見ても顔色ひとつ変えないなんて」

「自分でそれ言っちゃうのね」

「やだ、伊吹さんて肩書、ブランドマネジャーですってよ!」


長い爪で伊吹さんの名刺をつまんでいた神部が、ぎょっとした声をあげた。


「それって、すごいの?」

「外資系でブランドマネジャーって言ったら、言葉の通り、ブランドそのものの責任者よ。商品開発にも広告宣伝にも影響力のある人」

「へえ?」

「この世間知らず! 日本企業みたいに、今たまたまその部署でその担当してます、なんてのじゃない、正真正銘のスペシャリストよ。伊吹さんはその日本市場担当みたいね。すごい名刺もらっちゃった!」


さまざまな業界のトップを行く企業と仕事をしている神部がここまで興奮するということは、実際すごいんだろう。


「食事にお誘いしたら来てくれるかしら。なにが好きかなあ、ねえ天羽」

「知りません」

「一丁前に情報出し惜しんでんじゃないわよ、小娘が!」

「そんなことしてません、苦しい、苦しい!」


肌寒かったので首に巻いていたストールをぎゅーっと絞られる。神部の奴、ますます本気になったみたいだ。

言っておくけどね、伊吹さんは私に気があるって言ってたんだから!

なんて強がってみる。今考えてみると、幻聴だったとしか思えない。

なんていうか、あんな時間を共有した後なのだから、私はもう少し、伊吹さんが特別扱いしてくれるんじゃないかと思っていたのだ。

まったくそんなことはないのが悲しいし、期待していた自分が恥ずかしい。

そして腹立たしい。──完全に私の空回りじゃないか!


「ねえ、フレンチお好きか聞いといて」

「自分で聞きなさいよ」

「なによ、あたしが近づいたらそれはそれで焼きもちやくくせに」

「なっ…」


なんでそれがわかるのよ!

──じゃなくて。なんてこと言うのよ、嘘よ、嘘!
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