極上な彼の一途な独占欲
神部が私を無遠慮に指さす。


「バレバレなのよ。伊吹さんこっち見て、私に話しかけてって。小学生みたいな心の声が聞こえてきてたわよ」

「ええっ、待って、伊吹さんにもそれ、聞こえてたかなあ…!」


いきなり半泣きになった私に、神部のほうが「あんた素直ね」と困惑している。


「たぶん聞こえてなかったわよ、安心しなさいよ、ていうか冗談よ」

「うう…」


なにをやっているの私、28にもなって。

それもこれも全部、伊吹さんのせいだ。あんなに楽しく飲ませておいて、ドキッとさせておいて、今日の態度は完璧に普通とか。

振り回されている。

魔王め!




「おい?」


天井のライトで逆光になった魔王が、私を見下ろしていた。


「わ! びっくりしました」

「びっくりしたのはこっちだ。こんなところでなにしてる」


こんなところというのは、再入場口のすぐ横にある、用途不明の四角いスペースにあるベンチだ。たぶん以前は、公衆電話が並んでいたのではと想像する。

背もたれもない、ただの板みたいなベンチに脚を引き上げて三角座りをし、ぼうっと天井を見上げていた私は、どれだけそうしていたのかと慌てて時計を見た。

よかった、まだ休憩時間は終わっていない。


「ここ、人が来なくて穴場なんです。伊吹さんこそ」

「荷物を受け取っていたんだ」


そう言って掲げてみせる分厚い封筒には、カタログなんかをよく刷っている印刷会社の名前が入っている。


「校正かなにかですか」

「刷り出しだ。来年モデルチェンジをする車種のプレカタログ」

「ここまでそういうデスクワークが追いかけてくるんですね」

「そっちだって同じだろう?」
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