極上な彼の一途な独占欲
まあ、そうです。

細いベンチの、私と背中合わせの側から、すぐそばに伊吹さんが腰を下ろした。


「見る?」


言いながら封筒の中身を引き出す。私は身体をひねって彼の手元をのぞいた。


「いいんですか? 機密じゃあ…」

「ショーで展示もしてる車だ、問題ない。来月には店頭に並ぶカタログだし」


とはいえ私に見せたことは内緒にしたいんだろう。伊吹さんはしー、と口元で人差し指を立ててみせた。

ひと目で分かる上質な紙に、セダンの美しい外観やインテリアが印刷されている。最小限に留められたテキスト、練られたコピー。


「…きれい」

「うん、いい色が出てるな。このままいけそうだ」


組んだ脚の上に乗せた刷り出しを見つめる目は、満足そうだ。口元は穏やかに微笑んでさえいる。


「文字のチェックなんかも、伊吹さんがするんですか?」

「それはほかの担当者がする。俺は全体的な質や方向性を見る」

「なにを基準に、チェックするんですか」


伊吹さんが、興味の度合いを確かめるみたいに、ちょっと私を見た。体勢上、すぐ近くから見下ろされることになり、私は内心ドキッとする。

彼の手が、簡易的に冊子状に折り重ねられた紙を、ゆっくりめくった。


「まずは車のコンセプトが、正しく伝わっているかどうか」


艶やかな黒いボディが、建物のきらめく灯りを反射しているページが見える。


「それからお客様の好奇心、自尊心、ブランドへの期待、すべてを満たす品質であるかどうか」


さらにめくると、飴色の革のシートが現れる。インパネやコンソールパネルは、ぬるりと輝く純黒のピアノブラック。

伊吹さんの指が、光の筋のひとつをなぞった。


「カタログを手に取った瞬間、この車を自分のものにしたい、という所有欲を掻き立て、気持ちを高揚させるかどうか」


つぶやくような、語るような声が、すぐ耳元で響く。スーツから香る香水。
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