極上な彼の一途な独占欲
背後の私を顎で指した伊吹さんに、暢子がうやうやしくうなずいた。

彼はそのまま出ていってしまい、部屋には私と暢子だけになる。


「…そんな青白い顔で赤面するって、器用ね」

「うるさいな」

「鬼とか悪魔とか言ってたのはどうなったわけ?」

「知らないよ」


今にも笑い出しそうな顔で、軽いため息をついて、暢子がこちらにやってくる。そして正面の、さっきまで伊吹さんが座っていた場所に腰掛けた。


「遥香が彼を気に入っているそうね」

「あ、聞いた?」

「女の子たちの間でも話題になっててね。見えるところでは控えなさいって遥香には言っておいたわ」

「ありがとう、注意すべきか迷ってたの」

「ただの焼きもちなんじゃないかって、自信が持てなかったのね?」


うるさいなあ、ほんと。

長いつきあいだけあって、私の変化には鋭いのだ、暢子は。


「さ、もう少し横になってなさい。しんどい日でしょ」

「ごめん」

「さっきの伊吹さん、相当気にかけてる様子だったわよ。女の事情がわからない人に心配かけるんじゃないの。よくなったらちゃんと報告に行くように」

「はい」


そんなこと言われたって、と内心文句をつけながら、もう一度ソファに横になる。プレハブの小さな窓から、初冬の午後の日差しが曇りガラス越しに差し込む。

鬼だし悪魔だよ、今でも。けれどなんでか、優しくて温かいの。私は現金な女だから、そんなことされたら、胸が熱くなるのをどうにもできない。

きっと向こうもそれを知っているの。

そういうところが悪魔。

私は我ながら悩ましげな息をつき、メイクが落ちるのも構わず、タオルに顔を埋めた。

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