極上な彼の一途な独占欲
じゃあ、なに?

怪訝そうな顔をしたのがわかったのか、彼が詫びるような苦笑を浮かべた。


「気持ちいいなと思ったんだ」


なおも私の表情を探り「食べっぷりがってことじゃないぞ」と言い添える。

私はこの気持ちの揺れが顔に出てしまう前にとメニューに目を戻し、たまたま開いたところがお酒のページだった。


「ワインでも飲もうかな…」

「やめとけ」

「えっ、でも伊吹さんはビール飲むんですよね?」

「飲んだらまた、忘れるんだろ?」


じろっと睨まれ、あ、そのことか…と小さくなる。


「一杯くらいなら大丈夫です」

「ダメだ。俺は同じ話を何度もするなんてごめんだ。それに昼間、体調が悪かったんだろう? そこに酒なんて、いつも以上に回るんじゃないのか」


まあ、その可能性はある。

寝酒代わりに一杯と思った私は、ちぇっと思いつつあきらめた。


「決まった?」

「五穀粥御膳にします。あとアップルパンケーキ」

「見事なまでの帳尻合わせだな」


ほっといてください。

あからさまなため息をついてみせ、伊吹さんが私の分までオーダーをしてくれる。料理が来るのを待つ間、人のいない静かな店内で、「あのう」と私は切り出した。


「たいへん申し訳ないのですが」

「ん?」

「あの、どうしても『車お好きなんですね』の続きを知りたくて。この間の会話を再現していただくわけには、いかないでしょうか」


唖然とされた。

繰り返し洗浄されてすっかり曇ったグラスを宙に浮かせ、見開いた目でこちらをじろじろ見る。うう、居心地悪い。
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