極上な彼の一途な独占欲
やがて伊吹さんはひと口水を飲むと、「『そりゃあ、この仕事してるくらいだからな』」と言った。始めぽかんとした私も、すぐに、それが"続き"なのだと理解した。

しかし当然ながら、続く自分の受け答えを覚えていない。うーん…。


「やっぱり自社の車にお乗りなんですか?」

「思い出したのか?」

「えっ、いえ」


ふたりしてきょとんとしてしまった。


「…私なら、こう言うかなと」

「すごいな、そのまんまだ」


なんでか尊敬の眼差しみたいなものを向けられてしまう。伊吹さんはくすっと笑って、「『一台はそうだけど、実はもう一台、他社のを持っている』」と続けた。


「…思い出深い車かなにか?」

「『最初に買った車だ。学生の頃』」

「ずっと持ってるんですか」

「『一度手放したんだが、たまたま中古車屋で再会して、思わず買った』」

「すごい、運命」

「『俺もそう思った』。なあ、ほんとに思い出してないのか? なんで同じ会話ができるんだ?」

「自分でもびっくりしてますけど、でも、なにか聞いたときに思うことなんて、数日でそう変わらなくないですか?」

「いやー…」


否定しかけた伊吹さんが、テーブルの隅から灰皿を引き寄せる。上着の下に指を入れ、シャツのポケットから煙草を取り出すと、ふっと笑って首をかしげた。


「それはつまり、素直ってことなんだと思うぜ」


両肘をついた姿勢で、一本を指に挟み、パッケージを眺めている。指先で赤い箱をもてあそびながら、その視線が私を捉えた。

わざわざ言葉にされなくてもわかる、好意のこもった視線。

楽しげで、優しくて、もっとなにか話せよ、ってそう語りかけているような。

なによ、あんな複雑な思いさせておいて。

憎たらしい男、と思った。

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