極上な彼の一途な独占欲
「中途半端な時期って、それはそれで楽しいもんね」

「ごめん、暢子からあんたに注意が行ったでしょ、なのに私がこんなんで」

「気にしないでよ、あれは私が悪かった。暢子さんだって別に、伊吹さんを好きになるなって言ったわけじゃないし」

「…好きなの?」


びっくりするほど不安そうな声が出た。みっともない。

遥香は私の腕をぎゅーっと抱いて、伊吹さんが消えた方角を見つめる。


「わかんない。そうなりそうな気もするし、脈がなければこのまま火が消える気もする。ていうか大抵、そういうもんじゃない?」


そのあっけらかんとした言いざまに、少し笑ってしまった。


「そうかもね」

「じゃあ私、部屋に戻ってる。悪いけど入浴剤、よろしくね」

「すぐ持ってくわ」


エレベーターに向かう遥香に手を振って、コンビニに行くために、今入ってきたエントランスをまた出た。

あーあ、と夜空を見上げて嘆息した。私より何歳も若い遥香のほうが、ずっと冷静に自分の心を見つめている。


「あーあ…」


上向けた顔を両手で覆った。自然と足が止まる。

なにをこんなにかき回されているのよ、もう。

これじゃあの人の思うつぼだよ。

だけど遥香の言った通り、ふわふわ曖昧なこの感じは、楽しいのだ。楽しんでいる場合か、と我ながら思うけれど仕方ない、楽しいんだから。

ああもう本当に。

なにをやっているのよ、私。

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