極上な彼の一途な独占欲
07. あなたになら
激動の日曜日が終わろうとしている。

休日は開場時間も長い。あたりが真っ暗になってもまだ新規に入場してくるお客様もいて、場内の熱気は見たこともないくらいだった。




「終礼始めまーす」


お客様の姿が見えなくなって少しした頃、閉場の確認が取れたのか、中山さんが号令をかけた。

仕事に追われている間はアドレナリンに助けられていたものの、終わったと意識した途端それが切れて、どっと疲れに襲われる。たぶんみんな同じ。

社員さんも代理店さんもモデルもコンパニオンも、くたびれた脚をひきずってブースの中央に整列した。


『えー、二度目の週末、お疲れさまでした。本日の来場者数速報です』


マイクを持った中山さんから、毎日主催者が発表する全体来場者数の数字が伝えられると、想像を超える多さにざわっとみんながどよめく。

続いて告げられたブース来場者数も、なにかの間違いじゃないかと思うような数字だった。

自然と湧き起こった拍手を、まあまあと満足そうになだめ、中山さんが再びマイクを口元に持っていった。


『というわけで新記録も出たことですし、本日のスピーチは、伊吹さんお願いします!』


伊吹さんたちクライアントは、整列したスタッフと向かい合うように、前のほうに並んでいる。突然指名された伊吹さんは、目を見開き、周囲の拍手に戸惑った顔をしていた。

これは終礼の定番で、MCである中山さんが毎日誰かを指名し、前に立たせてスピーチをさせる。話す訓練にもなるし、みんなに名前と顔を覚えてもらう機会でもあるし、一緒に笑ったり緊張したりすることで一体感が生まれる。

スタッフの余興のようなものなので、クライアントに白羽の矢が立つことはこれまでなかった。

伊吹さんは苦笑し、中央に出ると中山さんからマイクを受け取った。片手にバインダーを抱えて、片足を少し投げ出して、くつろいだ様子で話し始める。


『みなさんお疲れ様。もう聞いていると思うが、今日このブースの来場者数が過去最多となったのは、ランキングの記事の影響の可能性が高い』


伊吹さんがこういう場で話すのは、初日やなにか特別な伝達事項があるときのみなので、彼が前方に立っているというだけで緊張感が高まる。
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