極上な彼の一途な独占欲
『記事内で、このブースの満足度はダントツだった。だがもしかしたらあの記事を書いたライターが偶然、いい接客を受けただけかもしれない。そういう意味で、我々の真価が問われたのはこの土日だったと思う』


ふと彼は言葉を切り、みんなをざっと見回した。


『期待値の高いお客様に対して、全員が最高のパフォーマンスを見せてくれたと感じている。それがどう受け取られたかは、明日以降、自ずと結果が出るだろう』


公の場で、"全員が"なんていう大きな言葉を使って、伊吹さんがこんなふうに評価を口にしたのは、たぶん初めてだった。

そのパワーは莫大で、女の子たちの中には、目を潤ませている子もいる。代理店の人たちですら、言葉を失っている。

自分の発言が及ぼした影響に気づいているのかいないのか、伊吹さんは淡々と続けた。


『この仕事をしている人間なら、誰一人欠けることなく最終日を迎えるのが、いかに困難か知っていると思う。もう負傷の報告もいくつかもらった。疲れも溜まってきている。あと一週間、どうか事故や怪我に注意してほしい』


そこで少しの間を置き、視線を落として言おうかどうしようか迷っているようなそぶりを一瞬だけ見せた後、またまっすぐな視線を注ぐ。


『今このチームに不要な人間はいない。グランドフィナーレを全員で迎えられるのを楽しみにしている。私からは以上』


きっぱりと言い切って終わるのが、とても彼らしいと思った。

拍手と嗚咽の中、もといた場所に戻る様子も、いつもとなんら変わらない。美しく伸びた背筋、自信に満ちた足取り。

私たちのリーダー。




控え室を出たら、外が寒くて驚いた。

いつの間にこんな冷えていたのか。

息が見事に真っ白になるので、関係者出口に向かいながら、強弱をつけて吐き出しては遊んでいたら、後ろから「子供か」という声がした。

振り向く前に、伊吹さんが隣に並んだ。


「あっ、お疲れ様です」

「今までいたのか、遅いな」

「休み前だしと思って、いろいろと片づけてたらこの時間に」

「俺もだ」
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