極上な彼の一途な独占欲
もう11時。でもまだ照明の灯っているブースがいくつもある。みんなお疲れ様だ。

伊吹さんもショー会場の建屋を見ながら、白い息を吐いている。

その横顔を見ていたら、込み上げてきた。


「あの、伊吹さん、終礼でのお言葉、ありがとうございました、…うっ」


思い出すだけで泣けてくる。女の子たちも、控え室に戻った後は号泣だった。私も暢子も一緒に泣いた。

なのに伊吹さんは、私を見て気味悪そうに顔をしかめる。


「いきなり泣くな。不安定な情緒だな」

「誰のせいだと…」


涙が止まらない。濡れたほっぺたに風が吹きつけて凍りそうだ。

ストールに首を埋めるようにして、鼻をすすった。


「みんな、ファイナルに向けてますますモチベーションが上がったと思います」

「それはなにより」

「…喜ばないんですか?」

「俺は結果さえ出してもらえればそれでいい」


またそういう言い方。

ダメですよ、もうみんな、わかってしまいましたので。伊吹さんの、一見冷徹な言動の底にある情熱とか、仲間への愛とか。


「その、無言でニヤニヤしてるときの頭の中は、なにが回ってるんだ?」

「ニヤニヤなんてしてません!」

「あ」

「えっ?」


通用門を出たところで、ふいに伊吹さんがホテルと逆の方向に顔を向けた。

つられてそちらを見て、私はわあっと歓声をあげた。


「きれい、もうそんな時期ですね」


向こうのほうに見える駅前の通りが、イルミネーションで飾られているのだ。そうか、いつの間にか12月も近い。寒さも手伝って、一気に冬を実感する。
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