極上な彼の一途な独占欲
「あっち回って帰るか、せっかくだし」

「伊吹さんも、せっかくだし、なんて考えるんですね」

「俺をなんだと思ってるんだ?」


魔王です。

商業施設もとっくに閉まり、歩いている人はほとんどいない。静かな街を、駅に向かって歩いた。

街路樹が白い電球で飾られている。雑誌に載るような有名スポットでなくとも、十分美しいし、なにより独り占めしている感じがすごくいい。


「駅前のアウトレット、来たことあります?」

「設営中に靴を傷めて、仕方なく買いに来たくらいだ」

「私、ここでの仕事のとき、このアウトレットも楽しみのひとつなんですよね」


安いし好きなブランドがたくさん入っているし、駅の目の前だしでなにかと言えば買ってしまう。ここで服を買い足すのを前提に、家から持ってくる服は最小限に留めるくらい。


「よくそんな時間があるな」

「休憩や半日オフのとき、さっと来るんです」

「ちなみにこの会話、二度目だからな」

「…え!」


思わず声をあげてしまい、じろっと見られた。

伊吹さんの口元に散る白い息は、ため息だ、たぶん。


「あの…どこから」

「『来たことあります?』から。よくそんなきれいさっぱり忘れられるな」


うっ…。

まずい、言われてなお、二度目という感覚がまったくない。


「伊吹さんだって、たまにはあるでしょう? 飲みすぎたりして」


コツコツと、整備された石畳の上に彼の革靴の音が響く。そこに「ない」というきっぱりした否定の声が重なった。
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