極上な彼の一途な独占欲
我ながら子供じみた言い訳しかできない。

コートに両手を突っ込んで、ストールに顎を埋めて、ぼそぼそと弁解をする。


「伊吹さんは、私にとっては…警戒が必要な相手じゃないですし」

「それは男からしたら存在否定に近い」

「そういう意味じゃなくて」


顔を上げたら、目が合った。

本当に否定された気分らしく、見下ろす顔は不本意そうに曇っている。


「ならどういう意味だ」

「あの、伊吹さんになら、ええと…なにをされても嫌じゃないというか」


あれ、ちょっと、なにを言っているの、私。

正直すぎでしょ。


「…嬉しいというか」


正直すぎでしょ、ねえ…。

ほら、あっけにとられてるよ、伊吹さん。

しまったなあ、と視線を泳がせつつ悔やんでいたら、ふと頬になにかが触れた。伊吹さんの指だ。コートのポケットに入っていたせいだろう、温かい。

あれ、なんだっけ、この感じ。つい最近あった。あっ、そうだ、今日の昼間だ。

あのときはまんまと騙されたんだった。

わかっているのに、バカな私はまた期待している。

同じようにまた、耳の上の髪に差し込まれる指にドキッとして。それを隠す器用さも持ち合わせず、きっと全部出てしまっている目つきで、彼を見つめるしかできなくて。

伊吹さんの表情から、考えは読み取れない。彼の向こうに、音もなく輝く木々たちが見える。

さすがにあんなふうにからかわれた後で、目を閉じるのはためらわれて。私のそんな心理を見透かしていたんだと思う。伊吹さんは私を待たなかった。

唇は前触れもなく重なってきた。

これといったきっかけもない、必然性もない、言葉での合意もない、唐突で、しかも初めてのキスにふさわしい、そっと触れ合わせるだけの淡い甘さ。

少し傾けられた伊吹さんの顔。触れる直前に閉じられた瞼。
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