極上な彼の一途な独占欲
請求書など重要な書類を脇に重ねながら、ちらっと腕時計を確認する。10時半。

昨日、浮かれてホテルの部屋に戻ったはいいものの、デート用の服なんて持って来ていないことに気づき、今朝一度家に帰ったのだ。

クローゼットと姿見の間を何度も往復して、気楽なベージュのニットワンピースに落ち着いた。これなら甘すぎず堅すぎず、会社に寄ると言っていた伊吹さんがスーツだったとしても、並んでおかしくない。

自分の足元を見下ろしていたら、幸せな笑いが込み上げた。

デートだって、伊吹さんと。

休みの日に、ふたりでお出かけだよ!


必要な事務処理を済ませた頃、ちょうど出る時間になった。


「じゃあごめん、お先にね。なにかあったら連絡ちょうだい」

「はーい、楽しんできてください」


日代ちゃんがピンク色のチークを丸く載せた顔で、にやっと微笑んで送り出してくれる。浮かれた気分が漏れているんだろうか、私。

コートを羽織ってオフィスを出た。いい天気。

隣の建物の一階は美容院だ。顔なじみの店長さんが中から手を振ってくれたので、振り返した。

急いでいるわけでもないのに、足取りが軽すぎてつい走ってしまう。

だってデートだ。

デート!




「郵便局、銀行、それからドラッグストア」

「それ溜まった用事を消化するルートですよね?」


伊吹さんの会社まで行ったら、ちょうど彼がビルから出てきたところだった。「どこへ行きます?」と聞いたところ、まさかというか案の定というか、まったく色気のないラインナップが返ってきた。


「そのための休日だ」


平然と言う彼は、私服だ。

冬らしいグレーの温かそうなセーターに、細身の黒いパンツ。腕にかけているのはキャメルのPコート。

カジュアルだけど崩しすぎていなくて、まずいことにすごく似合っていて、普段と違う姿を見てしまったのが、これから距離が縮まる合図みたいに思えて、会った瞬間どぎまぎした。
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