極上な彼の一途な独占欲
彼について歩き、ビルをぐるっと回ったところにある地下駐車場への入り口を入る。エレベーターで降りた先には、伊吹さんのブランドの車がずらっと並んだ圧倒されるような光景が広がっていた。


「すごい…ここ、社員駐車場ですか?」

「基本は社有車だ。あっちは広報車両と宣伝車両のエリア。現行車種のほとんどのグレードがそろってる」

「壮観ですね」

「俺は見慣れてるんだが、たまに言われると、そういえばそうだなと思うな」


広い地下駐車場を歩いた先で、伊吹さんを待ち受けるようにロック解除の音をさせたのは濃紺のセダンだった。いや…クーペ? でもドアは4枚ある。


「こういう車って、なんて呼ぶんですか」

「4ドアクーペだな。セダンの機能とクーペのラインを兼ね備えてる」

「きれいな色…」

「あんまり見ないほうがいいぜ、国産車の塗装で満足できなくなったら困るだろ」


宝物を自慢する男の子みたい。

伊吹さんは自信たっぷりににやっと笑い、助手席のドアを開けてから運転席に乗り込んだ。さわるのがためらわれるほどの、深い深い青に輝くボディ。

内装はアイボリーとコーヒーブラウン。なんて上品なんだろう。


「この車、伊吹さんのですか」

「そう」

「なんて呼んでるんですか?」

「どういう意味だ?」

「名前とかつけないんですか?」


シートベルトを締め、エンジンをかけ、ミラーを調整して、という出発前の儀式を手慣れた様子で済ませた伊吹さんが、なにか言いたげに口を開けたまま前方を見ている。

そのままなにを言うでもなく、車を出す頃には、肩を震わせて笑っていた。

そんなにおかしい?

私は車を持ったことはないけれど、持ったら絶対に名前をつけると思う。「今日も頼むよ〇〇ちゃん!」とかやりたいもの。
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