極上な彼の一途な独占欲
「男の人はそういうことしないんでしょうか」

「男女の差とも思えないけどな」

「そうかなあ…」


傾斜を軽快に駆け上がって地上へ出ると、真昼の光がボンネットを輝かせた。

「なにも決めてないんだ」という本人の言葉の通り、伊吹さんのドライブは行き当たりばったりだった。適当にお店のありそうな方向へ走らせて、「入りたいとこ見つけたら教えて」という感じ。

前から行きたいと思っていたビュッフェの入ったホテルを見つけたので、そこでランチとなり、今度はそこを基点に「外貨両替のできる銀行を探せ」と運転席から指令が来る。

私は携帯で必死に探し、「あっ、この先にあります」と言ったところが道路の反対側だったりして冷たい視線をもらい、半日でかなりの回数の"使えない"認定をされた。


「車慣れしていないにもほどがあるだろ」

「だって…」


最後にスーパーに寄りたい、と言い出した伊吹さんを、ようやくお望みの場所に案内できたのは40分ほど走ってからだった。そのうちの20分は私の誘導の下手さによる、ほとんど無駄な時間。

カゴを持つ伊吹さんについて店内を歩きながら、お小言をもらった。


「クライアントに車関係、多いだろうに」

「直接車に関わる仕事をするわけではないので…」


彼が足を止めたのはレトルト食品のコーナーだった。

温めるだけで食べられるごはんやカレー、ラーメンなんかの棚を物色している。


「ホテルの部屋で食べるんですか?」

「うん。最近もう、コンビニに買いに出るのも億劫で」

「わかります」


帰る頃には毎日くたくただ。

いくつかをカゴに入れるのを見て、私はアドバイスしたくなった。


「自炊しちゃったほうが、経済的ですしおいしいですよ」

「自炊? ホテルでか?」

「はい、あそこ簡易キッチンありますし、食器も調理器具もひと通り棚に入ってます。…さては伊吹さん、まったくお料理しない人?」

「天羽はするのか」
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