極上な彼の一途な独占欲
「じゃあ、また明日」

「今夜は飲みすぎてみてください、試しに」

「嫌だ」


先に来たエレベーターに乗り込みながら、伊吹さんが笑った。手を振る私に、ひらりと一度振り返して、扉の向こうに消える。

彼が握ってくれた右手を、口元に当てた。まだ温もりが残っている。私の手をすっぽり包み込んでしまった、男の人らしい大きな手。

ひとりでに顔が笑ってしまうのを止める気もなく、存分ににやにやしていたら、目の前のエレベーターのベルが鳴り、扉が開いた。

しれっと表情を引き締め、降りてきた男性に道を譲ろうとしたとき、心臓が止まるかと思った。

向こうも私に気づいた。

くだけたジーンズ、ざっくりしたニット、フード付きのダウン。一見して職業も年齢も不詳なあたりまで、全然変わっていない。

へたしたら学生にも見えそうな、緊張感のない顔が驚きの色に染まった。この顔のあどけなさが愛しくて、ずるいくらい好きだと思っていた時期もあった。


「美鈴」

「ヒロ…」


そうだ。

なにを浮かれていたの、私。

思い知ったじゃない、あのとき。数えきれないくらいの傷と一緒に、心に刻み込まれたじゃない。

恋愛なんて、するもんじゃないって。


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