極上な彼の一途な独占欲
「…そんなに楽しい飲み会でしたか」

「なあ、そこをとぼける意味はなんだ」


伊吹さんが耐えかねたように吹き出し、こちらに笑いかけた。

ドキッとして、ふわりと胸のあたりが熱くなった。

昨日、一緒に過ごした時間の分だけ、開かれた伊吹さんの扉。覗いてもいいし、なんなら入ってきてもいいぞって、言ってくれているのがわかる。

握りしめてしまいそうだったので、急いでハンガーをラックにかけた。


「なんのことでしょう」

「お前、覚えてろよ」

「なんのことでしょう」


つんととぼけてみせたまま控え室を後にした。

歩きながら、やりきれない思いに襲われた。あそこでヒロと会わなければ、伊吹さんと一緒に浮かれていられたのに。

別れ際のあの甘さを気持ちよく引きずって今日を迎えられたのに。

どこまで私を追い詰めるのよ。

なんで今なの。




「なにがあったの?」

「女の子が部屋に男を入れたって情報があったの」

「あらまあ」


暢子がため息をついた。

ショー会場の食堂はがらんとして、厨房から時折お鍋がぶつかるような音が聞こえてくるくらい。

今日も私は大きなほうの控え室に居場所がない。朝イチで例の件について、みんなに釘を刺したからだ。


『部屋に今の仕事と関係のない人を入れるのはマナー違反だよ。これまでわざわざ言ってなかったけど、今日からはっきり禁止にします』


どの子が当人かわからなかったから、全員に言うしかなかった。けれどぎくっと顔色を変えた子が複数いたのを見るに、発覚していなかっただけで、これまでにも似たようなことをしていた子はいるとわかった。

女の子たち含め、私たちにホテルが用意されているのは、毎日の通勤で体力や時間を削られるのを防ぎ、現場でのパフォーマンスを上げるためだ。宿泊費はショー運営費として伊吹さんたちクライアントが負担している。

そこに無関係の人間、ましてや男を連れ込むなんて言語道断だ。
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