クリスマスが終わる瞬間も
愕然としとる直人を引き連れ、予約していた部屋に足を踏み入れる。中にはツリーが飾りつけられていて、正直高かった。でもどうしてもここに泊まりたかったんよね。


「うわぁ、すごい!綺麗!」


テンションが上がり、窓際へと駆け寄るうちの背中に直人の言葉が落とされる。


「よりによってダブル……」
「だって恋人と泊まる予定やったんやもん」
「結局俺になってんねんから気にしろよお前は」
「大丈夫大丈夫、昔はよく一緒に寝とったやん」


いくつの時の話やねん、と怒ってるけど、なんでそんな反応してんのかな。寝るだけやん。

どうせこんなに大きいベッドやし、大の大人でも触れあわずに寝転がれるんやで?なにを気にすることがあるんや。


やれやれと肩をすくめれば、直人は頭を抱えている。今まで何度も見てきた姿はたいしてうちを動揺させることはない。


普段は冷めた人間にしか見えへんのに、うちのすることには定期的にこんなふうになる。

直人を知る友だちには長谷くんから大人っぽさを削ぎ落とせるのはあんただけやとお墨付き。うちは褒められてもなんも出ぇへんよと笑いましたとも。

意外にこいつは騒がしい。うちのせいやない。


視線のあわない直人を笑い、うちはベッドに腰かける。見てないようで見とるんか、彼はびくりと肩を跳ね上げさせた。

そんなに嫌ならここまで着いて来んとディナーが終わったところで帰ればよかったのに。あほやな。


相手にしてくれない直人を放って、うちはさっきまでの食事を思い出した。ふう、と深く息を吐き出す。


ウニのムース、オマール海老や神戸ビーフ。滅多に口にすることのない料理はソースでつやつやと輝いていた。

上品な味わいが舌の上に広がって。それは幼い頃には知らなかったもので、ずっとそばにおって共に成長して来た直人と共有するということは、なんや不思議なことやなぁ。

改めて、そう思う。28年て、ほんま、長いな。


直人は男やし、まだ早いんやろうとは思うけど、うちはもう結婚を考えなあかん年齢や。ウェディングドレスだって着たいし、子どもも欲しいし、周りが相手を見つけていく中このままは嫌やと思う。

今が不幸なわけやない。でも幸せを掴みたいって、思ってまう。


なのに、どうしてかな。うちが大人っぽくないからかな。

うちを選んで、結婚してくれるような人は見つからへん。今までになく真剣に、1年という長い時間をかけてもおらんかった。
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