ひとりピクニック
特急列車に一時間揺られ海沿いの街で一旦下車し、そこから鈍行に乗り換えて静かな海岸線を東へとゆっくり進む。
三時間以上かけて小さな駅ひとつひとつに停車しながら辿り着くローカル線の終着駅が、私の生まれ故郷だ。
のんびりした空気が漂うガラガラの列車の中で、四人掛けの座席に一人で座り、窓枠に頬杖をついて外を眺める。
窓から見えるのは、普段の日常とはかけ離れた音のない景色。
海と空と山と、あとは田畑か牧草地か。
駅が近づくとぽつりぽつりと民家が見え、漁港が近づくと海の波間に漁船が見える。
海辺の小高い丘の上に敷かれた単線のレールの上を、一両編成のディーゼルカーはただのんびりと進んでいく。
送電線もビルもない、空が何にも遮られないこの景色は、私が学生だった頃から何も変わっていなかった。
ふ、と思い出しポケットからスマホを取り出して、先月で付き合って五年になる恋人宛にメールを打つ。
『ちょっと実家に帰ってくる』それだけの素っ気ないメールに、『了解』とさらに素っ気ない返事が返ってきた。
……実家に帰る理由も、聞いてくれなかったな。
なんて思いながらまた窓枠に頬杖をついた。