ひとりピクニック
自分の右手薬指には、先月の記念日に彼からプレゼントされた指輪がはまっている。
デザインも色も自分好みのお気に入りの指輪だ。
右手を太陽の光にかざすように眺めながら、小さくため息をつく。
彼からのプレゼントとは言っても、実際は彼が後からお金を出してくれただけで、私が選んで買ったものだ。
記念日にはお互いにプレゼントし合おう。
付き合い始めた頃に決めたつまらない約束を、五年たった今も律義に守ってくれる彼は、誠実で優しい人なんだと思う。
だけど、約束を守る事だけが残り、プレゼントを選ぶために費やす時間や、相手の欲しい物をさりげなく探り合う駆け引きなんかは、彼の中では無駄な事だと判断されたんだろう。
誕生日もクリスマスも記念日も、いつの間にかプレゼントは自分が欲しい物を選ぶシステムになっていた。
五年も付き合えば妥協も諦めも必要だってわかってる。
それでも、どんなくだらない物でもいいから、彼が選んだ物が欲しかったなんて文句を言ったら、贅沢な奴だと女友達から責められるんだろうな。
でも、相手を喜ばせたいという気持ちはいつの間にか薄れてしまったのに、形だけのプレゼントを贈り合う事になんの意味があるんだろう。
かたん、ことん、と揺られながら視線を右手の指輪から外へ移すと、馬の親子がのんびりと牧草を食んでいた。
この春に生まれたばかりの仔馬は、ぴったりと母馬のそばに寄り添っている。
その微笑ましい景色を横目で見ながらもう一度ため息をついて、スマホをバッグの中にしまった。