ひとりピクニック
 
二人掛けのベンチが向かい合うように設置された、ボックス席。
さっきまでは私が一人で座っていたはずなのに、いつの間に。

女の子はそんな私の動揺なんてお構いなしで、小さなお尻の下に自分の手を挟んで、足をプラプラさせながら楽しげに外を眺めていた。

こんな小さな女の子が、ひとりで列車に?
不思議に思い一両編成の車内をそっと見回してみたけれど、保護者らしい人の気配はなくて、私は小さく首を傾げる。

「美味しそうだね」

女の子は足をプラプラさせたまま、私の持つサンドイッチを見てそう言った。
その黒目がちのくりくりした瞳は、小さなポメラニアンに似ていた。

「食べる?」

そう聞くとためらいもなく頷いたので、持っていたパンを銀紙ごと半分に千切り彼女の前に差し出す。
嬉しそうに両手で受け取る姿は、今にも尻尾を振り出しそうなくらい無邪気だ。

「美味しい」
「鼻にクリームチーズついてるよ」
「うん?」

子供ってこんなに食べるのがヘタクソなんだ。
銀紙に包まれたパンに大きな口をあけてかぶりつくのはいいけど、力の加減をせずに持つからクリームチーズがはみ出して鼻の頭にちょこんとついた。
手を伸ばして人差し指でその鼻についたチーズをぬぐってやると、女の子はうれしそうに口をニッと横に開いて笑った。

私はすっかりぬるくなったコーヒーをすすりながら、背もたれに体を預けてぼんやりと外を眺める。
海辺を進むのんびりとした列車の中には、車輪が線路の上を転がる音と、すぐ横の砂浜に打ち寄せる波の音が絶えず響いていた。

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