ひとりピクニック
 
私が実家にいた頃は、よくピクニックをしたなぁ。

ツナサンドに玉子サンド。
母が作ってくれたサンドイッチを銀紙で綺麗にくるんで魔法瓶と一緒にバスケットに入れる。
それから犬用のおかしも少し。

小さなポメラニアンにリードをつけて自転車のかごにのせ、親子岩の見える海岸や山側のキャンプ場までよく走ったっけ。

芝生の上でお昼を食べると、ちゃんと犬用のおやつを用意しているのに、私の食べるサンドイッチを欲しがった。
ツナサンドはスライスした玉ねぎが入っているから。
玉子サンドはマヨネーズの塩分が気になるから。
そうやって我慢させていたけれど、いつの間にかピクニックのお昼は、犬が食べても問題の無い塩分の少ないクリームチーズのサンドイッチばかりになった。

それは私の思い出の味で、今でも自分でよく作ってしまう定番になってる。

銀紙を剥がした瞬間に、ちぎれんばかりに尻尾を振って私の膝に飛び乗って来た小さな体。まるで取り合うようにして頬張ったサンドイッチ。

もうそんな事も出来ないんだな。と思うと、失った存在の大きさを実感して、じわりと目の奥が熱くなった。

小学生の頃から高校を卒業して実家を出るまでの間。
誰よりも傍にいて、あんなに一緒の時間を過ごしたのに。
大学進学で札幌に行ってからは、何もない田舎で過ごした日々を取り返そうとするように、新しい物ばかりに夢中になって地元の事なんて思い出しもしなかった。
盆と正月くらい帰ってきなさいという母からの電話を適当に聞き流しながら、自分の居場所はここ札幌だと思い込んでいた私は、なんてバカな勘違いをしていたんだろう。

いなくなってしまってようやく、その存在の大きさに気付くなんて。

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