ひとりピクニック
ぐずっと鼻をすすると、目の前の席に座る女の子が瞬きをしてこちらを見た。
こんな子供に泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、誤魔化すように鼻をこする。
「かわいい指輪」
ぽつりと言われた言葉に首をかしげると、女の子は私の右手を指さしてもう一度繰り返した。
「あぁ」
鼻をこすっていた自分の右手を見る。
薬指にはまった指輪を見下ろしてぼんやりと考える。
「気に入ったんならあげようか?」
なんとなく投げやりな気持ちでそう言うと、女の子は真剣な表情で首を横に振った。
「だめ」
「だめ?」
「自分の持ってるものは、ちゃんと大切にしないとだめ」
黒目がちの大きな瞳にじっと見つめられて、思わず言葉を無くした。
まったくその通りだ。
たった今、失ってからその大切さに気付く自分のバカさ加減にうんざりしていたのに、私はまた同じことを繰り替えそうとしていた。
こんな小さな子に諭されるなんて、本当に私はダメだなぁ。なんて苦笑いしながら、
「わかった。ちゃんと大切にする」
そう言って自分の右手をそっと抱きしめた。