一人の部屋と二人の夜
ドアを開けると、普段は一切見せることのない、情けない顔をした佐伯が立っていた。
その様子に笑ってしまいそうになった瞬間、ぐいっと腕を引かれてよろけそうになる。気が付けば、きつく抱き締められていた。
そのまま部屋に入って、肩口に顔を埋められた。
オートロックのドアが閉まると同時にカチャッと鳴り、二人っきりの空間が出来上がる。
心臓の音は、自分のものか、佐伯のものか。
体を離して見上げると、今度は切なそうな表情の同期がそこにいる。
目が合ったら逸らせなくて、見つめ合った。
離れたくなくて、首に腕を回した。
これでもう、ただの同期じゃなくなった、と思った。
「……好きだ」
唇が触れる直前、佐伯が掠れた声でそう言った。
さっきは堪えた涙が、ついにこぼれ落ちてしまった。それを親指でそっと拭ってくれる。
返事をするように目を閉じると、温かい唇が降りてくる。
一緒に過ごしてきた日々を噛み締めながら、長い長いキスを交わした。