一人の部屋と二人の夜

ドアを開けると、普段は一切見せることのない、情けない顔をした佐伯が立っていた。
その様子に笑ってしまいそうになった瞬間、ぐいっと腕を引かれてよろけそうになる。気が付けば、きつく抱き締められていた。

そのまま部屋に入って、肩口に顔を埋められた。
オートロックのドアが閉まると同時にカチャッと鳴り、二人っきりの空間が出来上がる。

心臓の音は、自分のものか、佐伯のものか。
体を離して見上げると、今度は切なそうな表情の同期がそこにいる。
目が合ったら逸らせなくて、見つめ合った。
離れたくなくて、首に腕を回した。

これでもう、ただの同期じゃなくなった、と思った。


「……好きだ」

唇が触れる直前、佐伯が掠れた声でそう言った。
さっきは堪えた涙が、ついにこぼれ落ちてしまった。それを親指でそっと拭ってくれる。
返事をするように目を閉じると、温かい唇が降りてくる。

一緒に過ごしてきた日々を噛み締めながら、長い長いキスを交わした。



< 10 / 10 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:112

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

好き、禁止。

総文字数/48,624

恋愛(純愛)72ページ

表紙を見る
願うは君が幸せなこと

総文字数/105,660

恋愛(オフィスラブ)152ページ

表紙を見る
君は世界を旅してる

総文字数/100,359

青春・友情151ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop