一人の部屋と二人の夜
ここは都内にある、いわゆる高級ホテル。
重厚感漂う扉から一歩足を踏み入れると、美しく輝くシャンデリアが歓迎してくれる。
客室の窓からは、まるで運河のような光溢れる夜景を一望出来て、いつまでも眺めていたくなる。
隣の客室にいる佐伯一哉(さえき かずや)という男は、会社の同期だ。
何故私達がこんな高級ホテルに宿泊することになったかというと、それはつい先程このホテルで開かれた結婚披露宴に参加したからだった。
とても有難いことに、デザイン会社に勤める私と佐伯が今回手掛けたのが、このホテルのチャペルのリニューアルだったのだ。
完成して間もない今日、一番にそこで式を挙げたのがホテルのオーナーの息子で、是非ご一緒にと招待された。
チャペルはとても素晴らしい仕上がりだと喜んで頂けて、プライベートでは泊まれないようなこの場所に一泊していってくれとまで言われてしまった。
それで恐縮ながらも私と佐伯は、隣り合った部屋に宿泊することになったというわけだ。
ベッドサイドのデジタル時計を見て、いつの間にか随分時間が経っていることに気が付いた。
その間ずっと抱き締めたままの枕は温かくて、ふかふかで気持ちがいい。顔を埋めると石鹸の香りがした。