一人の部屋と二人の夜
佐伯と一緒に働くようになって、もうすぐ五年。
入社当初から意気投合した私達の関係は、どこまでいってもただの同期でしかなかった。
お互いに困ったことがあれば何でも相談したし、別れた相手への愚痴を聞き合ったこともある。
どんな風に仕事をするか、次にどう動くかまでわかるようになって、家族以上に同じ時間を過ごす仕事仲間は、良い意味で空気のような存在だった。
そんな二人が変わり始めたのは、三ヶ月ほど前のこと。
彼氏の浮気に気付いて別れた私が、佐伯を飲みに誘った時だった。
「なんかもう、恋愛するの疲れたかも。相手のこと信じられなくなりそう」
「キッパリ別れて正解だな。早く次に進めるだろ?」
「今は全然次のことなんて考えられないよ」
「……俺だったら、そんな顔させないのに」
え?と思ったのと同時に、妙に納得したのを覚えている。
そして気付いてしまった。佐伯のことなら無条件に信じられることに。
ただその時は、佐伯がどんなつもりでその言葉を言ったのかわからなくて、深く考えないことにした。
自惚れるつもりはなかったし、佐伯とはいつまで経っても一緒にいられるような、安定した関係を保っていたかったのだ。