一人の部屋と二人の夜

だけどそれから私は、ことあるごとに佐伯に振り回されるようになった。

ある時は私を家まで送ってくれて、またある時は目を細めて髪を撫でられた。
明らかに今までと違う距離感に戸惑って、上手く言葉を返せなかったこともある。
佐伯と一緒にいるときに恥ずかしいだなんて、感じたことなかったのに。


そして、初めて佐伯からデートに誘われた日に、私はようやく自覚することになる。

普段見慣れているスーツとは違う私服を見た時、いつもよりラフにセットされている髪を見た時、私に歩幅を合わせてくれていることに気付いた時、確かに胸が高鳴ったのを感じた。

この気持ちは何なのか考えながら向かった映画館、暗闇の中でそっと手が触れた瞬間に、胸元を掻きむしりたくなった。
早くなった鼓動と顔に集まった熱が、私に強く訴えかけてきて。

唐突に、理解した。
私はこの人と、仕事のことを抜きにしてもずっと一緒にいたいのだと。


他の人と付き合っても、結局いつも佐伯の所にいた。一番近くにいて離れたくないのは佐伯だった。
つまり佐伯だって同じように、いつも私の側にいたのだ。
そのことに気付いた時、もしかしたら私達は同じ気持ちなんじゃないかと思った。

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