一人の部屋と二人の夜
聞きたいのに聞けなくて、少しだけ怖くて、だけど近い距離にいる。
そんな状態のまま今日を迎えて、結婚式に招待された。
幸せそうな新郎新婦を眺めながら、どうしても隣に座る佐伯を意識してしまっていた。
もし、目の前の幸せそうな二人のようになれる日が来るなら。そんな想像を一人でして一人で照れくさくて、だけどそうならなかった時のことを考えて一人で落ち込んで。
佐伯は、どんなことを思いながら式に出席していたのだろうか。
そして披露宴が終わり部屋へ戻る途中、二人きりのエレベーターの中で、佐伯は私の左手を握った。
ドキッとする私に気付いたのか気付いてないのか、そのまま薬指の根元に指を滑らせて、こう言った。
「まだ誰にも予約されてないよな?」
それぞれの部屋のカードキーを持ってドアの前に立った時、まだ離れたくない、もっと一緒にいたいと言ってしまいたかった。
でも出来なかった。とても幸せそうな結婚式を目の当たりにして、流されているだけだと思われたら嫌だったから。
おやすみ、と言って部屋に入っていく佐伯に、私もおやすみ、とだけ声をかけた。
一人ではこの部屋は広過ぎる。
寂しい。会いたい。顔を見て話して、確かめたい。